ラベルに文字のない美容液ボトル
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D2Cで参入する市場は自社の強みと競合の状況、顧客のニーズを重ねて選びます。参入前に確認しておきたいのが広告費の回収と運営体制です。生き残るブランドに共通する作り手の熱量と明確な顧客像を整理し、商品から発信までの整合性を解説します。

※本記事の事例は守秘のため複数の案件を組み合わせて再構成したものです。本文中の数値は個別の実績を証明するものではありません。

「市場を読む」とはどういうことか

市場規模と競合の数に加えて、何が変わり、何が変わっていないのかを把握してください。その両方が分かって初めて、自分のブランドがどこで勝てるのかを判断できます。

変わったのは競合の数とCPO、消費者の比較行動、そしてこれまでのセオリーが通用する範囲です。変わっていないのは、見た目や体の悩みを解決したいという欲求、それと信頼できる商品を選びたいという気持ちです。市場を読むときはこの両方を確認します。

「勝てる土俵」の選び方

市場を読む目的は「自分が勝てる土俵を見つける」ことです。同じ美容液でも「高機能・高価格帯」「敏感肌専用」「成分訴求型」「ギフト向け」では競合も求められる強みも違います。確認したいのは「1. 自社の強みが活きる」「2. 競合がまだ弱い」「3. 顧客のニーズが実在する」の重なりです。すべてが重なる場所は多くないだけに、見つけたときの価値は大きいのです。ただし参入者が増えれば環境も変わるため「今の土俵はまだ有効か」を定期的に問い直してください。それが長期的な競争優位につながります。

同じノウハウを持つ競合が増えた

化粧品・健康食品市場は、かつて「マス」と「プレミアム」の二極でした。今は超低価格(プチプラ)から超高価格(ラグジュアリー)まで多層化しています。その中でD2Cが集中する「中価格帯・機能訴求」が最も激戦になっています。プチプラ帯はコスト削減競争で小規模D2Cが資本力で劣位になりやすく、超プレミアム帯はブランドの権威性構築(百貨店・サロン・メディア・専門家監修)が前提になります。

D2Cが比較的戦いやすいのは「中高価格帯+特定顧客層への深い訴求」です。「30〜45歳キャリア女性向けの成分科学派スキンケア」「アスリートの回復をサポートする複合サプリ」のように、「誰のための」が明確で競合が手薄な層を見つけることが、多層化時代の差別化になります。

参入が増える本質的な理由は「勝ちパターンの可視化」です。参入障壁の低さは、きっかけにとどまります。かつて一部の代理店・先行者だけが持っていた「定期の設計」「広告運用」「LPのセオリー」が、SNSと書籍、セミナーで広く流通しました。大手出身者や代理店経験者が独立し、知識を持つコンサルの支援で資本を持つ経営者が参入します。

「ノウハウの民主化」によって市場が活性化すると、差別化に求められる条件も変わります。かつての「知っている人が勝てる」市場から、今は「みんなが知っている中で、何が違うかで勝負する」市場へ移ったのです。

同じノウハウを持つ競合と何で差をつけるか。私は「顧客理解の深さ」と「商品の本質的価値」だと考えています。ノウハウが広く共有されても、特定の顧客を深く理解し、その人のために作った商品までは簡単にコピーできません。

実例:顧客の9割が50代以上でも、ECは5倍に伸びた

富山で長く通販を続けてきたある健康食品メーカーは、顧客の9割が50代以上でした。電話・はがき中心のオフライン通販で、EC経由の売上は全体の1割ほどでした。

商品ラインナップの全面刷新に合わせ、ウェブから集客して新規顧客を獲得する仕組みをゼロから構築しました。私が担当したのは集客からCRMまでの全体設計と、制作・運用までです。システムの選定からサイトをリニューアルし、媒体選定と広告運用、LP構築を進めました。獲得後のステップメールとDMも含めて一気通貫で担当しています。

結果、EC経由の売上は導入前比5倍、新規顧客獲得数は7倍になりました。この案件が示すのは「50代・60代は安さより信頼性で選ぶ」層の厚みです。ターゲットが高齢でもECは機能します。鍵は、既存の販売チャネルの売上を奪わない設計と、獲得したあとの育て方にあります。

市場規模だけで参入を決めない

市場に需要があっても、自社が事業を続けられるかは別に確認する必要があります。参入を決める前に、少なくとも次の点を確認してください。

  1. 自社に最も強くかかる重力
  2. 10年後にも選ばれる理由
  3. 広告に頼らず顧客と出会える経路
  4. 事業を続けるための体制と資金

まず見極めたいのは4つの重力のうちどれが自社に最も強くかかるかです。これからも4つが強まることを前提に、自社の商品と売り方がどの影響を最も大きく受けるかを検証します。

次に、10年後にも選ばれる理由を考えてください。過去の実績がそのまま根拠になるとは限りません。広告単価が安い時期にだけCPOが合っていたのなら、その実績は市場の追い風によるものです。追い風がなくなった今も顧客が自社を選ぶ理由は何か。その問いに答える必要があります。

さらに確認したいのは広告に頼らず顧客と出会える経路です。広告費を半分にしても口コミや紹介、SEOやSNSで新しい顧客と出会えるでしょうか。こうした経路がなければ広告費が上がるたびに事業は苦しくなります。

最後に運営の体制と資金を確認します。化粧品・健康食品D2Cには商品開発、法規対応、原料調達、在庫管理、顧客対応など多くの業務があり、広告を出したあとも運営は続きます。体制と資金が足りないままでは売れ始めたあとに事業を続けられなくなるのです。

比較表の内容をテキストで読む
1 似た商品が増える
かかる圧力:類似品の乱立・価格競争。「もっと頑張る」(消耗):値下げで対抗。「構造を変える」(設計):差別化軸(哲学・体験)を作る。
2 広告費の回収が遅くなる
かかる圧力:CPO上昇・回収悪化。「もっと頑張る」(消耗):広告をさらに最適化。「構造を変える」(設計):広告に頼らない流入とLTV設計。
3 顧客は買う前に比較する
かかる圧力:「見せ方」が通じない。「もっと頑張る」(消耗):コピーを盛る。「構造を変える」(設計):調べるほど本物とわかる根拠。
4 これまでの売り方が通用しない
かかる圧力:各工程の効きが低下。「もっと頑張る」(消耗):施策を磨き続ける。「構造を変える」(設計):設計の方向性そのものを変える。

市場は年々厳しくなっています。それでも状況を正確に理解すれば成功のチャンスは十分にあります。4つの重力を知らずに参入するブランドが消耗する一方で、あらかじめ事業の設計に織り込んで運営するブランドだけが残ります。重力を乗り越えた先では競合も減るため、市場の重力は「参入障壁」にもなるのです。

市場の重力はなくなりません。飛ぶには重力を前提に機体全体を組み立てる必要があります。最初に作るのは「なぜこの商品を作るのか」という哲学を整理したMVVと、「誰に届けるか」を決めたペルソナです。処方や価格や広告で迷ったときに立ち返る基準になります。MVVとペルソナが機体を進ませるエンジンです。

生き残るブランドが持つ条件

20年・150社・250ブランドの経験から、生き残るブランドには共通の条件があると確信しています。どの条件も、4つの重力の中で選ばれ続けるために欠かせません。

条件1は作り手の熱量が商品に宿っていることだ

生き残るブランドのほぼすべてに、なぜ作ったのかを語れる原点があります。創業者自身が肌荒れに悩んだ経験や、家族の病気をきっかけに食と健康を調べ直した経験です。こうした原点があると、商品設計の優先順位も変わります。売れるために何を入れるかより、本当に効くために何が必要かを考えるようになるからです。その違いは口コミの内容や継続率にも表れます。

市場調査で売れそうだと判断して作ったブランドは、初動は広告費で作れても愛着が生まれず、解約率が高くLTVが伸びません。

条件2は誰のためのブランドかが一言で言えることだ

ターゲットの話と文脈の話は違います。「30代女性向け」はターゲットで、「子育て中に自分を後回しにしてきた女性がもう一度自分をいたわるためのブランド」は文脈です。

文脈が明確なブランドには発信の一貫性があります。SNSやLP、パッケージやCSの文体が同じ世界観を語り、このブランドらしいという感覚が信頼になるのです。私が「ブランドの輪郭」と呼ぶのはこのことです。輪郭がはっきりしたブランドは記憶に残り、曖昧なブランドは広告費をかけるほど印象が拡散します。

条件3は設計の整合性があることだ

商品と価格、チャネルと発信が同じ方向を向いていることも条件です。たとえば1万円の高品質スキンケアを初回980円で販売すると、安く試したい層が先に入ってきます。安く試すために入ってきた層は1万円を払い続けません。SNSで作り手の思いを伝えながら、LPでは効果効能だけを強く打ち出す場合も、ブランドとして伝える内容にずれが生じます。

設計に整合性があれば、顧客は購入前から購入後まで一貫した体験を得られます。迷いや違和感が少なくなり、この商品を買い続けることが自分らしいと感じてもらえる。その感覚が長期継続の理由になります。MVVとペルソナは、こうした条件を自社に備えるために使う道具です。

本記事は『化粧品・健康食品D2Cのブランド経営』第1章p.23〜28を基に再編集しています。記事単体で読めるように書籍への参照を調整し、本文を「です・ます調」に整えています。

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この記事の著者

山口尚大
山口尚大化粧品・健康食品D2Cコンサルタント・著者
著書3冊|化粧品・健食D2C業界20年。150社250ブランドの実績。新規ブランド立ち上げから既存ビジネスの伸び悩み打開までを事業プロデュース。クリームチームマーケティング代表|日本ネット経済新聞連載中

・著書『化粧品・健康食品業界のためのダイレクトマーケティング成功と失敗の法則』
・著書『化粧品・健康食品EC・D2C新規参入パーフェクトガイド』
・最新刊『化粧品・健康食品D2Cのブランド経営』
化粧品・健康食品D2Cは競争が激しく、正しい戦略や事例に学ぶことが成果を左右します。私たちが支援した150社の事例と最新の戦略をまとめたホワイトペーパーをご用意しました。→今すぐ無料で入手する

山口尚大

著書3冊|化粧品・健食D2C業界20年。150社250ブランドの実績。新規ブランド立ち上げから既存ビジネスの伸び悩み打開までを事業プロデュース。クリームチームマーケティング代表|日本ネット経済新聞連載中

・著書『化粧品・健康食品業界のためのダイレクトマーケティング成功と失敗の法則』
・著書『化粧品・健康食品EC・D2C新規参入パーフェクトガイド』
・最新刊『化粧品・健康食品D2Cのブランド経営』