雲の上を飛ぶ飛行機の翼と空
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化粧品・健康食品のD2C市場では似た商品の増加と広告費の回収の遅れに加え、購入前の比較と売り方の変化が同時に進んでいます。この4つを「市場に働く重力」として整理し、商品から集客と継続までを一体で設計する考え方を解説します。

※本記事の事例は守秘のため複数の案件を組み合わせて再構成したものです。本文中の数値は個別の実績を証明するものではありません。

今から参入してもまだ勝てるのか

最もよく聞かれる質問があります。「今から化粧品・健康食品のD2Cに参入して、まだ勝てますか?」

私の答えは毎年変わってきました。2015年頃は「今がチャンスです」、2020年頃は「正しく設計すれば十分戦えます」と伝えていました。そして2026年の今は「勝てます。ただし勝ち方が根本から変わりました」と答えています。

参入者が増え続けているのに勝てると言うのには理由があります。「何で勝つか」が変わったことで、以前は勝てなかった人が勝てるようになり、以前勝てていた人が勝てなくなりました。本記事ではこの構造を整理します。

2010年代後半から2020年代初頭にかけては広告費が安く、競合も少ない時期でした。消費者が持つ情報も今ほど多くはなく、マーケティングの技術を磨けば市場の追い風に乗れたのです。2026年のいまはその追い風がありません。

私の現場から:手法だけを学んだ人が迷走する理由

マーケティングを熱心に学んだ経営者ほどつまずきやすいのです。本やセミナーで手法を学び、知識は豊富に持っています。それでも学びが操縦のテクニックで止まっていると、市場の変化に対応できません。操縦桿やスロットルの操作を覚えても、飛び立ってからの気流や刻々と変わる天候を読めなければ進路を選べないからです。

ある経営者がまさにそうでした。座学で身につけたやり方を、市場の動きや顧客の声にかかわらず当てはめようとしていたのです。教科書の正しさにこだわるほど、目の前で起きていることとの乖離が広がっていきました。気流の変化を読みきれないまま操縦桿を握り続け、やがて進むべき方角を見失ってしまいました。

学んだ手法は晴れた日の操縦法に当たります。天候が変わり気流が乱れたときは「今、空がどうなっているか」を読んで進路を決める力が必要です。知識を出発点にしながらも、現場で起きていることに合わせて判断します。その感覚を失えば、どれだけ理論を身につけてもいずれ判断を誤ります。

いま4つの重力が最も強くなっている

私が初回の相談で必ず伝えるのはD2C市場に働く4つの重力です。いまは似た商品がすぐに増え、広告費の回収も遅くなっています。顧客は購入前に比較し、これまでの売り方も同じようには通用しません。どれも以前からあった重力ですが、いまはこの4つが同時に強まっているのです。

重力1 似た商品がすぐに増える

参入障壁が下がり、話題の成分や処方を使った商品は他社もすぐに作れるようになりました。差別化の軸がなければ価格競争へ入りやすくなります。深刻なのは商品が同質化するまでの速さです。

あるスキンケアブランドは特定成分の美容液で参入し、3か月で月商1,500万円に達しました。しかし半年後には同じ成分を掲げる競合が7つ現れ、1年後には価格競争が始まりました。初回単価を下げた結果、LTVが下がり、2年後に撤退しました。成分による差別化は競合が追いつくと消えます。競合の数より、何を理由に選ばれるかを決めずに参入したことが問題でした。

重力2 広告費が上がり回収が遅くなる

CPOは広告で新規顧客を獲得するためにかかる費用です。媒体や商品、対象顧客や時期で金額が変わるので、粗利LTVと比べて自社の水準を判断してください。粗利LTVとは顧客一人が継続購入を通じて生む粗利のことです。CPOが上がれば同じオファーのままでは回収に必要な購入回数も増えます。何か月で広告費を回収できるかまで確認が必要です。口コミや自然検索、紹介などの接点を育てることも、広告費だけに依存しない事業を作るために欠かせません。

重力3 顧客は買う前に比較している

スマートフォンとSNSにより、口コミ、成分、価格、使用感などの情報へ短時間で到達できるようになりました。ここで起きた変化は、情報へのアクセスのしやすさです。さらに今ではAIに商品について相談することも当たり前になっています。

顧客が比べるのは企業の発信だけではありません。商品そのものやオファーに加えて、利用者の声や経験も他社と比較します。顧客が調べたときに自社製品を選ぶ理由が分かるよう、商品の設計とウェブ上の情報の両方を整える必要があります。

重力4 これまでの売り方が同じようには通用しない

SNS広告からLPへ案内し、定期購入につなげてCRMで顧客との関係を育てる流れは今も有効です。ただし媒体や競合の状況、顧客の比較行動が変われば、各段階の設計も見直す必要があります。クリエイティブの制作やABテストを続けながら、ターゲットと商品、オファーと継続購入、粗利までを確認してください。現在のマーケットで事業全体が機能するかを判断するためです。

4つの重力は連動しています。似た商品が増えると同じ顧客を取り合うためCPOが上がり、回収が遅くなります。顧客は買う前に比較するため見せかけは通じず、これまでの売り方も同じようには通用しません。この4つが重なることで市場の難易度が上がっているのです。

この重力に対抗する力が揚力です。ここではD2Cブランドを一機の飛行機に見立てています。翼である広告とPRに加えてエンジン、胴体、尾翼、燃料まで機体全体を設計することで重力を上回る揚力が生まれます。

D2Cに働く4つの重力と揚力。似た商品の増加、回収の遅れ、購入前の比較、売り方の変化に対して事業全体の設計で対抗する図
図3 4つの重力と揚力

4つの重力を事業の設計に織り込む

木の机に置かれた白紙のノートとペン

実例:1,000〜2,000円の商材では広告費を回収できない

大阪で日用品のECを営む中小事業者が、化粧品D2Cに参入しました。EC運営とブランド構築の経験があったため「化粧品も日用品と同じで難しくない」と考えていました。販売価格は日用品と同じ感覚で1,000〜2,000円に設定しようとしていました。

化粧品の新規顧客を一人獲得するには1万円を超える広告費がかかることも珍しくありません。1,000〜2,000円の商品を1回売っても到底回収できません。原価と送料、決済手数料を引けば広告費に使える金額はさらに減ります。

そこで価格帯を引き上げ、定期モデルとクロスセルで広告費を回収する設計に変えました。化粧品D2Cでは新規獲得の費用に見合う中〜高価格帯の商品を設計する必要があります。ECの運営力はこの会社の強みでした。その強みを化粧品販売でも生かすには、薬機法への対応とCPOの基準、定期購入やリピート購入までを先に決めることが求められます。異業種の成功体験を生かすためにも、市場の4つの重力を最初から事業計画に織り込む必要があるのです。

4つの重力に合わせて収益構造を変える

4つの重力は自社では変えられない外部環境で、自社で変えられるのは内部環境、つまり事業の設計です。

多くのブランドは広告費を増やし、コピーを磨いて接触頻度を上げます。それでも市場の4つの重力は消えません。広告費の回収が遅くなるなら、広告に頼らず顧客と出会える仕組みが必要です。似た商品が増えるなら成分以外に選ばれる理由を作り、購入前に比較されるなら商品と発信の両方を整えます。これまでの売り方が通用しないときは、商品から広告、継続購入までの設計を組み直してください。

それでもこの市場が「消えない」理由

厳しい市場に見えるでしょう。しかし私はこの市場が消えるとは考えていません。化粧品・健康食品D2Cは「人が自分自身への投資をやめない」という事実に支えられています。年齢への不安や見た目を整えたい気持ち、不調を改善したい願いは、景気や技術が変わっても続きます。インフレや不景気の中でも「体と見た目への投資」を続ける層は一定数います。リーマンショックやコロナ禍でも、この市場は他の消費財と比べて底堅さを維持してきました。

人口構造も追い風になっています。アンチエイジングや予防、ウェルネスへの関心が高まる中で、50代・60代には可処分所得のある人が多くいます。この層が重視するのは「安さ」より「信頼性」です。購入前に情報を調べる人が増えるほど、この「信頼性で選ぶ層」が本物のブランドの追い風になります。

ECも生活に浸透しています。地方に住んでいても都市部のブランドの商品を買え、深夜でも注文できるうえ、定期購入なら買い続ける手間も減らせます。こうした利便性が需要を支えているのです。事業者が考えるべきなのは「どう差別化し、どう信頼を積むか」です。

需要は十分にあります。しかし自社の商品が選ばれるとは限りません。市場規模だけでは、参入する理由と事業を続けられる根拠までは見えてきません。

本記事は『化粧品・健康食品D2Cのブランド経営』第1章p.18〜23を基に再編集しています。記事単体で読めるように書籍への参照を調整し、本文を「です・ます調」に整えています。

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この記事の著者

山口尚大
山口尚大化粧品・健康食品D2Cコンサルタント・著者
著書3冊|化粧品・健食D2C業界20年。150社250ブランドの実績。新規ブランド立ち上げから既存ビジネスの伸び悩み打開までを事業プロデュース。クリームチームマーケティング代表|日本ネット経済新聞連載中

・著書『化粧品・健康食品業界のためのダイレクトマーケティング成功と失敗の法則』
・著書『化粧品・健康食品EC・D2C新規参入パーフェクトガイド』
・最新刊『化粧品・健康食品D2Cのブランド経営』
化粧品・健康食品D2Cは競争が激しく、正しい戦略や事例に学ぶことが成果を左右します。私たちが支援した150社の事例と最新の戦略をまとめたホワイトペーパーをご用意しました。→今すぐ無料で入手する

山口尚大

著書3冊|化粧品・健食D2C業界20年。150社250ブランドの実績。新規ブランド立ち上げから既存ビジネスの伸び悩み打開までを事業プロデュース。クリームチームマーケティング代表|日本ネット経済新聞連載中

・著書『化粧品・健康食品業界のためのダイレクトマーケティング成功と失敗の法則』
・著書『化粧品・健康食品EC・D2C新規参入パーフェクトガイド』
・最新刊『化粧品・健康食品D2Cのブランド経営』