木のそばに置かれた方位磁石
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MVVはミッションとビジョンとバリューを整理したものです。D2Cブランドでは経営者の原体験と現場の決定から「なぜ作るのか」「何を譲らないのか」を言葉にし、処方と価格と広告を決める基準として使います。届ける相手はペルソナで具体化します。

※本記事の事例は守秘のため複数の案件を組み合わせて再構成したものです。本文中の数値は個別の実績を証明するものではありません。

D2C市場の4つの重力の中で、事業を前へ進ませる力がエンジンです。その役割を果たすのがMVVとペルソナです。まずMVVを整理し、市場と競合を分析してからペルソナを作ります。

2つのブランドを分けた大きな違い

数年前にほぼ同じ条件で始まった2つのスキンケアブランドから相談を受けました。どちらも東京都内の中小企業で、商品の製造はOEM企業に委託していました。初期予算は1,000万円から1,500万円。SNS広告を使い、構成の似たランディングページで商品を販売していたブランドです。

18か月後には両社の間に大きな差がついていました。一方は月商2,500万円に達し、高い継続率を維持しながらSNSのフォロワーも自然に増えていました。もう一方は月商500万円前後で停滞したままです。広告代理店を2回変え、ランディングページも3回作り直しましたが、状況は変わりませんでした。

両社を比べると、何を大切にするかを先に決めていたかどうかが大きく違っていました。伸びたブランドの経営者が立ち上げ前に答えを出していたのは「なぜこの商品を作るのか」「誰の生活を変えたいのか」「事業が苦しくなっても何を譲らないのか」という問いです。その答えが処方や価格、広告表現を決める基準になっていました。

停滞したブランドにも企画の根拠はありました。「市場調査で需要があった」「競合より成分が良かった」という根拠です。ただしブランドが存在する理由や最初に届けたい相手、それと絶対に譲らないことは、ずっと曖昧なままでした。施策を変えるたびに方向性も変わっていきました。

広告や商品ページの改善が必要な場合もあります。ここで確認したいのは改善の順番です。ブランドが目指すものが曖昧なまま表現だけを変えると、何が良くなり何がずれたのかも分からなくなります。

作る理由と届ける相手がMVVとペルソナになる

ブランドの方針が定まっているかは、次のことに答えられるかで分かります。

  1. なぜこの商品を作るのか
  2. 誰のために作るのか
  3. 何を譲らないのか

作る理由、届ける相手、譲らないものが一本につながっていれば、処方や価格、売り方で迷ったときの基準になります。すでに販売を開始しているブランドもすべてを一から作り直す必要はありません。現在の商品や広告手法、顧客対応をこの答えと照らし合わせてみてください。違和感のある箇所を見つけたら、そこがネックになっている可能性があります。

化粧品と健康食品では、製造を任せるOEMや企画から製造までを任せるODMが多く使われます。似た処方の商品を他社も作れるため、製造方法だけで大きな差をつけるのは難しくなっています。そこで必要なのが「なぜこの処方なのか」「なぜこの配合量なのか」「なぜクリームや錠剤やドリンクなどの剤形を選ぶのか」への答えです。工場の標準処方を選ぶ場合も、その理由を説明できるようにしてください。

ここで出した答えをMVVとペルソナの形に整えます。「なぜ作るのか」と「何を譲らないのか」はMVVへ、「誰のためか」はペルソナへまとめます。順序はMVVが先です。その間に市場と競合を分析して、自分のブランドが勝てる場所を決めます。

図4の内容をテキストで読む

3つの答えがエンジンになる。MVVとペルソナ。

  • 「なぜ作るのか」「何を譲らないか」からMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を作る。
  • 「誰のためか」からペルソナ(生活の場面まで決めた最初の顧客)を作る。

一本の文につなぐ。「私たちは〇〇を実現するために、〇〇の場面にいる人へ、〇〇を譲らずに商品と顧客体験を届ける」。処方と価格と広告とCRMで迷ったときに立ち返る基準。フライトプランがつながらないときは、3つの答えのどこかを見直す。

商品を製造して広告を始めた後に、MVVとペルソナを決めようとするケースがあります。発売後にも見直せますが、先送りした分だけ修正範囲は広がります。処方や容器、商品名や価格、初回条件からLPや同梱物までが別々の前提で作られていれば、コピーを一文変えるだけでは整いません。社内の各担当者が同じ方向で仕事を進められるよう、MVVとペルソナを先に共有することが大切です。

すでに商品開発が進んでいる場合は、止められない工程とそうでないものを分けます。処方の確定、資材の発注、表現や表示の校了、撮影、カート設定をチェックし、変更期限を確認します。

そのうえで顧客との約束に影響が大きいものから直していきます。全部やり直すか、そのまま発売してしまうかの二択にしません。

MVVは経営者の言葉を基礎に作る

MVVは経営者が「なぜ作るのか」「何を譲らないのか」に答えた言葉を、ミッションとビジョン、バリューに整理したものです。届ける相手を決めるフレームは含まれていないため、残る「誰のためか」はペルソナで具体化します。最初に届けたい顧客の生活場面まで考えて決める必要があります。

ミッションはブランドが存在する理由、ビジョンは顧客と社会に起こしたい変化、バリューは迷ったときの判断基準と顧客への約束です。

ここでいう世界観は、ビジョンを顧客が思い描ける場面まで具体化した表現を指しています。

MVVは商品やその処方、価格、売り方を決める際の羅針盤です。「肌が本来持つ力を生かす」というミッションなら、処方で何を入れて何を入れないのかが自然と決まります。たとえ短期的な売上が見込めても使わない表現や、守り続ける品質基準まで定まってくるのです。ここまで具体化するとMVVはただの理想やお題目を超えた経営の道具になります。

答えは経営者の原体験と現場の決定から探す

では、その答えはどこから探せばよいのでしょうか。私は経営者に「このブランドがなくなったら誰が何を失いますか」と尋ねています。答えに詰まるときは、立派な文章を考える前に商品の企画を始めた場面へ戻ってください。

誰のどんな困った場面を見たのか。なぜ自分が解決したいと思ったのかを確認します。

譲らないことは次の質問から見えてきます。

  1. この商品が10年後も市場にあるべき理由を、お金の話以外で1分で話すことができるか
  2. 競合の値下げに追随するとしたら、品質や利益、オファーをどこまで変えるのか
  3. 原価を下げるためならば、処方や製法をどの程度まで変えるのか
  4. どのようなクレームを最も重く受け止めるのか
  5. 絶対に変えないことと、状況に合わせて変えられることが区別されているか

答えを並べると、経営者が大切にしているものが見えてきます。重視すべきは言葉の美しさより内容そのものです。

譲らないものは商品と売り方に現れる

茶葉と素材を添えた一杯のお茶

ある健康系ブランドの創業者は「本物は時間がかかる」という確信を持っていました。同じ素材を使った商品を、短期間で量産する製法が広がる中で、数か月をかける昔ながらの製法を選びました。素材本来の力を引き出すにはこの製法が必要だと考えていたからです。費用も製造期間も増えます。それでも製法を変えませんでした。

この考えを起点に原料の選定基準と、安売りを前提にしない価格設定が決まりました。広告では製造に時間と費用をかける理由を説明しました。同じカテゴリーの他商品と原料が似ていても、何を守っているブランドなのかが伝わります。哲学は、売上や費用、納期の間で迷ったときに、何を優先するかに現れます。

作り手の理由と実現したい未来を確認する

ある経営者から「売れる商品を作りたい」という相談を受けました。市場規模や成分、価格の話は出るものの、経営者自身がこの商品を作る理由は出てきませんでした。私が案を出しても「うーん、何かが違う」という反応が続きました。

もっともらしい企画でも、経営者本人が取り組み続けられるとは限りません。ブランドの立ち上げでは想定した売上になかなか届かず、広告費や人件費ばかりが先に出ていくこともあります。そんな時期に経営者を支えるのが「この商品を世に出したい」という本人の理由と意思です。

先ほどの相談では、私が何度商品企画案を出しても決まりませんでした。経営者は早い段階でブランドの立ち上げを諦めました。経営者の中にその理由と意思がない状態では、いくら外から答えを加えても事業は動き出しません。

商品より先に実現したい未来を決めたブランドもあります。創業チームが最初に言葉にしたのは「人がきれいになることで、本人に自信と心のゆとりが生まれる。そのゆとりが周囲への優しさとして広がっていく未来をつくる」というビジョンでした。

このブランドでは社会貢献を購入のきっかけにできるかも話し合いました。まず商品を使って効果を実感できることが前提です。そのうえで購入を通じて社会に貢献したと感じてもらい、顧客が「いい買い物をした」と思える状態を目指しました。世界観を先に作る場合も、顧客が商品に求める価値とどうつながるのかを確認したほうがよいでしょう。

創業の物語を後から整えすぎない

創業の想いを後からきれいな物語に整えすぎることにも注意が必要です。強い感情を伴う経験があっても、それだけで商品や売り方を決める根拠にはなりません。実際に何が起き、そこで何を選び、現在の商品とどうつながっているのかを確認してください。説明できない部分を、経験していない物語で埋めないことが大切です。

ブランドストーリーなどの物語を「売れてから考えればいい」と後回しにしたツケは、いつか必ず払うことになります。競合が増えた段階で「なぜ存在するのか」に答えられないブランドは、価格競争に巻き込まれます。思想がないブランドにはファンが生まれません。

大事なのは「美しく書く」ことより「本当のことを書く」ことです。何に怒り、何を変えたかったのか。失敗や葛藤も含めて正直に書かれたストーリーのほうが響きます。顧客はブランドの「人間らしさ」に共鳴します。

MVVが弱いと感じたら、言葉を整える前に材料となる事実を調べ直してください。創業者が立ち上げに至った出来事を1つ1つ確認し、顧客一人一人に丁寧に話を聞く。創業者自身が日々の暮らしで何に困ってきたのかを書き出すことも役立ちます。こうした細かな事実の集積が、MVVを強くします。

後から足した物語は顧客に見抜かれやすい

商品ができてからストーリーを考え、LPで世界観を演出し、パッケージで高級感を出すことがあります。しかし商品自体の設計がコストや流行、競合との比較だけで決まっているなら、物語は後から貼り付けたものです。見せ方をうまく整えてもいずれ消費者には見抜かれます。

一方で「なぜ作るのか」への答えが先にあり、それが「この成分は使わない」「この価格より下げない」「このターゲット以外は追わない」という設計上の制約として働いているとき、物語は商品に内包されています。商品そのものが哲学を体現しています。内側から設計されたものだから剝がれません。この違いが、コモディティ化した市場で残るブランドと消えるブランドを分けます。

本記事は『化粧品・健康食品D2Cのブランド経営』第2章p.30〜36を基に再編集しています。記事単体で読めるように書籍への参照を調整し、本文を「です・ます調」に整えています。

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この記事の著者

山口尚大
山口尚大化粧品・健康食品D2Cコンサルタント・著者
著書3冊|化粧品・健食D2C業界20年。150社250ブランドの実績。新規ブランド立ち上げから既存ビジネスの伸び悩み打開までを事業プロデュース。クリームチームマーケティング代表|日本ネット経済新聞連載中

・著書『化粧品・健康食品業界のためのダイレクトマーケティング成功と失敗の法則』
・著書『化粧品・健康食品EC・D2C新規参入パーフェクトガイド』
・最新刊『化粧品・健康食品D2Cのブランド経営』
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山口尚大

著書3冊|化粧品・健食D2C業界20年。150社250ブランドの実績。新規ブランド立ち上げから既存ビジネスの伸び悩み打開までを事業プロデュース。クリームチームマーケティング代表|日本ネット経済新聞連載中

・著書『化粧品・健康食品業界のためのダイレクトマーケティング成功と失敗の法則』
・著書『化粧品・健康食品EC・D2C新規参入パーフェクトガイド』
・最新刊『化粧品・健康食品D2Cのブランド経営』