この記事では、事業戦略について具体的に検討していきましょう。 まずは、事業戦略のなかで最も基本であり、最も重要となる「ミッショ ン・ビジョン」を策定するところから始めます。
ミッション、ビジョンとは?
ミッションとビジョンは、この図のように関係性が表されることがあります。
ミッションはよく「使命」と言われることもあるように、企業として、社会に対してどのように貢献するのかを表すものです。ミッションについては、イメージしやすいのではないでしょうか。
一方ビジョンとは、実現したい未来像を表すものです。例えば、Googleのビジョンは「Top rovide accessto the world’s informationin oneclick.」すなわち、「ワンクリックで世界中の情報へアクセスする」というのがGoogleのビジョンです。
Googleが生まれた30年ほど前は今のようにインターネットが普及しておらず、情報は分散しており、何かを探すとき、必要な情報にアクセスすることが非常に困難でした。
このGoogleの例からもわかるように、ビジョンにおける「実現したい未来」とは、「『不』がなくなった世界」と言い換えることができます。「不」とは、不便、不足、不快、不都合などのことで、周りを見渡してみると、こうした「不」は私たちの周りにたくさんあるものです。
ニキビなどの肌トラブルは「不快」と言えるかもしれません。食生活が乱れているとき、私たちは摂るべき栄養素が「不足」することが往々にしてあります。こうした「不」がなくなった世界を、自社の製品によって実現させる。それがビジョンです。
最後にバリューとはビジョンに至るための行動指針となるもので、「何をし、何をしないか」を明確にしたものと考えてください。例えば「環境にとってよくない素材は使わない」「全社員が実際に使って満足した製品しか発売しない」など、企業を運営するうえでの約束事と言い換えられます。
ミッションやビジョンは、なぜ必要なのか?
私が化粧品や健康食品市場に参入したいと考えている方にコンサルティングをおこなうときには、必ずミッションやビジョンについて徹底的に掘り下げ、明確に言語化するところから始めています。
なぜミッションやビジョンは必要なのでしょうか?なぜ、策定する必要があるのでしょうか?
それは、ミッションやビジョンがビジネスの根幹だからです。企業がどのような使命を持ち、どのような世界の実現を目指すのか。それは、木にたとえると幹や根の部分にあたります。根や幹がしっかりしていれば、木はぐんぐん水を吸って成長し、どこまでも枝葉を広げることができます。しかし根や幹がひ弱な木はうまく栄養を取り込むことができませんから、大きく育つことができません。ビジネスも同じで、ミッションやビジョンという根幹がしっかりしていなければ大きく成長することができないのです。
ミッションやビジョンを持つことで競合他社との差別化に成功している顕著な例として、スターバックスがあります。スターバックスが売っているのはコーヒーですが、掲げているミッションは「美味しいコーヒーを売る」ことではありません。家でも職場でもない「サードプレイス」を提供することをミッションに掲げているのです。
このように明確なミッションやビジョンが決まっているからこそ、店舗の立地や店内のインテリア、席の配置やスタッフの制服、メニューなどのあらゆる要素を決定する拠り所となっているのです。
単に「美味しいコーヒーをたくさん売って儲けたい」というだけであれば、ソファ席を置かずに小さなテーブルと椅子だけを並べて、できるだけ多くの席をつくって客数を増やしたり、あえて居心地を悪くすることで回転率を上げたりすることもできるわけです。しかしそれをしないのは、そのような環境をつくることがスターバックスのミッションやビジョンに反するからに他なりません。
ビジネスを成長させるためには、するべきことが大量にあります。製品の生産、改良、企画、宣伝、実店舗やECサイトなどの準備や運営、スタッフの教育など、施策は多岐にわたります。ミッションやビジョンが不明瞭のままではこれら全ての施策がバラバラになり、方向性がブレてしまいます。
たとえば、新しい化粧品をつくったので雑誌で宣伝したいと考えたとします。しかしミッションやビジョンが定まっていなければ、当然それに共感してくれる顧客がどのような人なのかが見えてきません。そのため、どういった雑誌に掲載すれば効果が高いかを判断することができません。
これは極端な例ですが、50代女性の不満を解消することをミッションに掲げた企業が、10代ユーザーが圧倒的に多いTikTokでバズっている女子高校生をイメージキャラクターとして起用したら、どうなるでしょう。
ターゲットとなる50代女性の多くがその女子高校生を知らない可能性も高いですし、50代をターゲットにしているのに10代を起用するという点で、かえってマイナスイメージを与えてしまう恐れもあります。
ビジョンやミッションが定まっていれば、ターゲットが具体的に決まります。そうすれば、どの媒体で宣伝すれば効果的なのかが決まっていきます。さらには、広告を打つ時間帯やキャッチコピーの文言、雰囲気なども決まっていくのです。これらの決断の拠り所となるのが、ミッションでありビジョンというわけです。
ミッションやビジョンがないと、事業が成長しない
レッドオーシャンである化粧品や健康食品市場には「製品さえ並べておけば自動的に売れるだろう」と軽く考えて参入してくるメーカーも大勢いますが、彼らにはミッションやビジョンがありません。「何のためにこの製品を売りたいのか」「この製品を売ることを通じて、どんな未来を実現したいのか」という想いがないために、施策が場当たり的なものになってしまいますし、うまく行かないとすぐに諦めてしまうのです。
イソップ寓話に、「3人のレンガ職人」という話があります。有名な寓話なので、ご存じの人も多いかもしれません。この寓話は、ミッションやビジョンといった目的意識を持つことと持たないことの違いをわかりやすく示してくれています。
ある旅人が、旅の途中に3人のレンガ職人と出会います。旅人は、それぞれの職人に「ここで何をしているんですか?」と尋ねます。
すると、1人目は「親方の命令でレンガを積んでいるだけだ」と答えました。命令されて嫌々やっている、と不満そうにレンガを積んでいます。
2人目の職人は、「お金を稼いで家族を養うために、大きな壁をつくっているところだ」と答えます。彼は、仕事は大変だけど家族を養うことができるのでありがたいと話しました。
そして3人目は、「大聖堂をつくっているんだ」と答えました。彼は生き生きとしていて、「大聖堂が完成すれば、たくさんの人が救われる。こんな光栄な仕事ができて幸せだ」と話しました。
同じ「レンガを積む」という作業なのに、ミッションやビジョンがあるかどうかでこんなにもとらえ方が変わるのです。