社内体制をどうするか?
この章の最初に、ステークホルダーの種類や付き合い方のポイントについてお伝えしてきました。ステークホルダーとうまく付き合い、効率よく役割分担をするためには、社内体制をどうするかも重要な検討材料です。
ECや通販ビジネスの大きなメリットが、少ない人数で大きな売上をあげられるという点です。1章でもお話ししましたが、2、3人で数億円の売上をあげることも不可能ではありません。ポイントは、人数を揃えることよりも、必要な担当部署を揃えることです。
ECや通販事業を立ち上げるとき、必要となる担当部署が5つあります。少なくともこの5つのポジションは、外注せずに社内に担当者を置いておく必要があります。
<事業責任者>
まずは当然ながら、事業責任者が必要です。多くの場合、事業部長や経営者、マーケティング責任者が担当することになりますが、基本的に新規事業は経営者が陣頭指揮を取るべきだと私は考えています。
事業責任者の主な仕事は、売上目標、各KPIの進捗管理、戦略・施策方針の打ち出しという、事業の柱の部分です。迅速な判断と決断力、行動力や指導力が求められるところなので、実力も地位もある経営者クラスの人材がここに立たなければ、そもそもEC・D2Cビジネスがスムーズに走りません。
会社によっては、経営者がITに詳しい若手社員を責任者に任命して丸投げするところもありますが、ここで必要なのはITのスキルではありません。真剣にEC・D2Cビジネスを成功させたいのなら、経営者を事業責任者に据えるべきです。
<新規顧客獲得担当>
顧客担当は、新規顧客と既存顧客で分けましょう。いちごの法則が示すように、新規顧客と既存顧客では取るべき施策がまったく違います。
新規顧客獲得担当者は、主に広告を担当します。商品をまったく知らない人に向けて訴求するためにどのような広告をつくればいいかを考え、テストを繰り返す部署です。
新規顧客獲得担当部署の成果は、CPO/CPAで判断します。CPO/CPAとは、顧客1件あたりの獲得単価のことです。たとえば、1,000万円の広告費を使って1,000人の顧客を獲得できたとしたら、CPOは1万円ということになります。広告代理店とパートナーを組んで、いかにCPOを下げられるかといった施策を練るのも新規顧客獲得担当者の仕事です。そのため広告配信のノウハウ、掲載するクリエイティブコントロール力、日々変わる法律のキャッチアップなど多岐に渡る能力が必要です。
<既存顧客担当>
既存顧客担当は、すでに顧客になってくれている方々をどうつなぎ止めていくかを考える部署です。LTVが長いほど商品を購入してもらう額も増えるため、既存顧客担当部署の成果はLTVで判断します。
半年間のLTVで成果を判断するのか、1年間のLTVで判断するのかなどは、会社の方針によって変動します。LTVをあげるための接点をつくるために、CRMやキャンペーン、メルマガやDMの制作、SNSの運用などを施策としておこなっていきます。主なパートナーは、制作会社やデザイナーです。
<お客さま担当>
ECサイトに入ってきた注文を処理したり、お客様対応をしたりするのがこの部署です。他にも、コールセンターのスタッフの教育やFAQの作成、メルマガの作成なども主な仕事です。顧客と一番近い距離にある部署です。
主なパートナーはコールセンターです。コールセンターはECサイトの中で唯一お客さまと直接触れ合う「ブランドの顔」ともいえるものなので、教育が不可欠です。
<システム担当>
システム担当は、商品やサービス内容よりもECサイトのシステムに精通している部署です。マーケティング施策や広告などに関して、主にプログラミングやコーディングなどのテクニカルな部分を担当する部署で、SEが入ることが多い部署です。
会社の規模によってはシステム担当部署がないこともありますが、システムについてわかる人が社内にいないことによって、ECサイトの開発や運用、メンテナンスが止まってしまうこともあります。そういった機会損失を防ぐためにも、システム担当は可能であれば置いておきたい部署です。
外注してはいけないもの
このように、少なくとも4つ、できれば5つの担当部署が社内には必要です。ただ、会社によっては2人や3人でEC事業を運営するところもあるでしょう。1人の社員が複数の部署を兼任することになると、1人あたりの負担が大きくなってしまいますから、すべてステークホルダーに外注してしまってもいいようにも思えます。
何を外注するのかについては、予算やリソースなどを総合して個別に判断するべきところになりますが、最低限これだけは外部に出さずに内製で担当してほしいものがあります。それが、デジタルマーケティング、企画・コンテンツライティング、それからディレクションです。順を追って解説しましょう。
<デジタルマーケティング>
本章の冒頭でもお話ししましたが、誰しも自社の利益が最優先です。シビアではありますが、メーカーの利益や成果を真剣に考えているのは、メーカーだけだと思っておくべきです。
そう考えたとき、デジタルマーケティング、いわゆる「デジタルを活用してどうやって売上をあげていくのか」を自社のために真剣に考えて実践できるのは、自社の社員だけなのです。ですから、この部分は社内に担当者を置いておきましょう。
<企画・コンテンツライティング>
SEOの部分で、自然検索でECサイトが上位に表示されることは非常に重要だという話がありました。そのためには、ECサイト内に良質なコンテンツが大量に必要です。
ここもEC・D2Cビジネスにおいてはコアな部分ですから、社内に企画やコンテンツライティングができる人材を持っておきましょう。
<ディレクション>
ディレクションは、ステークホルダーをコントロールするポジションです。先ほど、各部署の主なパートナーとして各ステークホルダーを挙げました。メーカー側が主導権を握ってECサイトを成功に導いていくためには、社内にディレクションができる人材が必要です。
ディレクションができる人が社内にいないと、広告代理店や制作会社、ツールベンダーなどの提案を鵜呑みにして主導権を明け渡してしまいます。
この3つのポジションは、EC・D2Cビジネスの要中の要です。ここを外注するということは、ビジネスそのものを他人に丸投げして、ただ資金だけを出しているのと同じこと。
事業を成功させて軌道に乗せていく醍醐味も味わうことができないでしょう。少なくともこの部分だけは、社内でできる人材を育成していきましょう。
専門家を社内で育てるには?
では、どうやったら人材を育てられるのでしょうか?最も近道なのは、EC・D2Cビジネスのプロとして活動している経営コンサルタントに併走してもらうことです。社内にノウハウがなく、専門的な知識がある人材もいない。経験者を採用する予算もその予定もないとなると、社内にいる人材を育てていくしかありません。
しかし、一昔前は手動が当たり前だったオンライン広告の運用も今や非常に高い精度でAIが最適化してくれているように、マーケティングをはじめECサイトの機能など、EC・D2Cビジネスにかかわるあらゆることが日進月歩で変容しつつあります。1年前に成功したノウハウが、今も通用するとは限りません。むしろ時代遅れで害を及ぼすことすらあるのです。
そのため、自社だけで最新情報を得ながら、かつ社員を育成するとなるとどうしても行き詰まってしまいがちです。大きな会社であれば、最新の情報やテクニック、ノウハウをキャッチアップする専門の部署があるところもありますが、小さな組織ではそこまで手が回りません。
そこで、EC・D2Cビジネスを専門としているコンサルタントを入れるのです。コンサルタントは常に最新情報に触れ、最新事例に精通しています。彼らが蓄積してきた知識や経験を活用しない手はありません。
ただ、単にコンサルタントを入れるだけでは、社員は育っていきません。あくまでもここは「社員の育成」を主眼として、育成ができるコンサルタントを選定しましょう。
単にアドバイスや提案をするコンサルタントではなく、社員に課題を出し、一緒に考えながらEC・D2Cビジネスを動かしていけるコンサルタントを選ぶようにしてください。1年、2年ほどコンサルタントに併走してもらい、その後は社員が独り立ちして各部署の仕事ができるようなビジョンを持っておくといいでしょう。