商品の魅力をすべて伝えることはできない
効率的なシステムを構築するの次は、商品を訴求し、顧客に確実に届けるためのマーケティングの方法について見ていきます。
商品の強みや魅力を訴求して、顧客に確実に届けるための方法として使われているのが広告です。広告にはさまざまな種類がありますが、EC・D2Cビジネスを軌道に乗せる上で広告は欠かせません。
広告戦略を考えるときに大前提として捉えておいていただきたいのが、一度の広告で伝えられることは非常に少ないということです。
たとえば、私たちは日頃Googleなどの検索エンジンを使って調べものをしますが、このときに表示される検索結果画面に広告を出すことができます。ただ、広告として表示できるのはわずか2、30文字しかありません。たった2、30文字でユーザーの注意を惹きつけ、クリックして先に進んでもらわなければならないのです。
メールマガジンで購読者に広告を打つ方法もありますが、メールのタイトルになるともっと短く、10文字〜15文字が限度です。本文ではいくらでも訴求することができたとしても、タイトルが魅力的に見られなければ、そもそも本文を開いてすらもらえません。
CMも、最大で15秒くらいが適切だと言われています。YouTubeを見ていると広告が挟まっていることがありますが、5秒でも「長い」と感じるのではないでしょうか?このように、広告媒体にはさまざまな種類はあれど、訴求したいことをすべて伝えることはできないのです。
では、どうすればいいのでしょうか。
1つの広告に1つのメッセージ
ポイントは、1つの広告につき、メッセージを1つに絞り込むことです。
たとえば、これから売り出したい新商品はオーガニックの原材料を使っていて、モニターの90%が高評価を下したとします。オーガニックの材料をふんだんに使用しながらも、価格をできるだけ抑えることにも成功しました。
この商品を訴求するとしたら、オーガニックの原材料を使用していること、モニターの90%が高評価だったこと、価格を抑えていることという、少なくとも3つのポイントについて訴求したいと考えるでしょう。
このとき、1つの広告に3つの訴求ポイントをなんとかまとめて入れ込むのではなくて、1つの訴求ポイントにつき1つの広告を出稿するのです。
予算の都合上で1つしか広告を出せない場合は、まず少額で3つの広告をテスト出稿し、最も反響が高かったものに予算を使いましょう。「伝えることは1つに絞る」。これは、どの広告媒体でも共通して意識していただきたいポイントです。
少ない文字数、少ない時間でユーザーを惹きつけるだけの広告を出すためには、ありきたりなメッセージでは届きません。重要なのが、独自のUSPを持つことです。USP(UniqueSellingProposition)はユニーク“セリング”プロポジションの略で「独自の販売優位性」です。ただ、考えすぎてもなかなかいいアイデアは出てきません。ポイントは、誰も気がつかなかった切り口を見つけることです。
切り口の発見には『アイデアのちから』(チップ・ハース他日経BP2008)という書籍が参考になります。その書籍では、人の記憶に残る要素として(1)単純明快であること(Simple)、(2)意外性があること(Unexpected)、(3)具体的であること(Concrete)、(4)信頼性があること(Credible)、(5)感情に訴えること(Emotional)、(6)物語性があること(Story)の7つのいずれかが必要だと記載されています。
たとえば価格を訴求したいのであれば、「えっ!?これで1,200円?」と多数のお得なアイテムが入ったポーチの画像と一緒に掲載することで「意外性」や「感情に訴えること」ができ、十分なUSPが伝わります。
この広告が目に入った人は、「え?何でこんなに入っているのに安いの?」と興味をそそられてクリックしてきます。
このようなプロセスを経た広告が大当たりすると、想像を超える結果を出します。私も過去に、わずか10文字前後のコピーが大当たりし、20億円近い売上をあげたことがありました。メッセージが強いとそのぶん飽きられるのも早いものですが、このときは私が担当を外れた後も数年間ずっと使われ続けていたようです。このように、広告をつくるときには伝えたいことをいくつも盛り込む必要はないということがおわかりいただけるのではないでしょうか。