また、店舗での販売チャンネルを持つメーカーが通販事業を始める際に注意しておくべき点があります。
とある化粧品を販売するメーカーがオーガニック成分を贅沢に使った B という化粧水を通信販売で展開し始めました。B は店舗では入荷してもすぐに在庫切れになるほどの人気商品です。この B を自社サイトで販売し始めたところ、最初は順調に売れていきました。しかし、ある日から突然 B の売上がみるみる下がってきたのです。不思議に思った担当者がネット上をくまなく調べてみると、なんと Amazon で正規価格よりも 500 円以上も安く販売されていたのです。しかも Amazon で購入すれば、送料無料で翌日には届きます。そのため、今まで自社サイトで購入していた顧客が Amazon に流れてしまったのでしょう。
こういった話は業界ではよくある話です。安く売っていたのは、新規で取引を始めた卸業者のようでした。商品を店舗に卸すのではなく、Amazon などに横流しをしていたのです。このケースではその卸業者を特定し、商品を卸すのをやめたのですが、このように、これまで店舗を中心に販売していたメーカーが通販を始めたときに多いのが、モールで安売りされてしまうケースです。通販はいつでも誰でもアクセスできるからこそ、価格のコントロール力を失い、安売りされやすいのです。
そもそも店舗と通販ではビジネスモデルが全く違います。小売店舗はあくまで販売のための流通経路です。販売したあとの顧客をどうするのか、といった視点はそもそもありません。いわゆるマスマーケティングに近い考え方で、広く認知し販売していくことを求められます。そのため商品価格も手に取りやす
い低価格、中価格が一般的でしょう。
一方、通販はダイレクトマーケティングの考え方をとるのが一般的です。広く認知し販売するよりもターゲットを絞って、個人に深くアプローチしていく方法です。商品価格もより付加
価値をつけた高価格帯で販売していくことが求められます。そのため、これまで店舗に卸していたものと同じ商品では通販には向いてないことがほとんどです。
価格コントロールをしやすくするためにも、一般に流通していない通販専用商品を用意するなど通販だけのメリットをつくることが必要です。また、オフィシャルな価格よりも安くモールで販売されないよう、自社の公式ショップとしてモールに出店しておく戦略も必要です。
そうしておけば検索結果に同じ商品が出てきたとしても、多少高くても公式ショップやオフィシャルショップで買ったほうが安心だというインセンティブが働き、売上を失ってしまう心配は少なくなります。