まだどこも発売していない商品を開発したので、販売したい」このようなご相談を受けるとき、私は「どのように売るつもりで開発したのですか?」とうかがっています。商品がどれほど素晴らしいものであったとしても、それが顧客にとって本当に需要があるものなのか、どのように売ることを前提として作った商品なのか、そこが明確でなければせっかくの新商品も全く売れずに終わってしまう可能性があるからです。
メーカーの最も重要な仕事は、基本的にはマーケティングだと私は考えています。もう少し踏み込んで言うならば、マーケティングという仕組みをつくることが最も重要だと言ったほうがわかりやすいかもしれません。商品を「作る」と「売る」であれば、「売る」ことを優先する意識が必要だということです。「すごい新製品を開発した」というプロダクトアウトのスタンスではなく、作った商品をどのように販売し、いかに顧客に継続して使ってもらうか。その仕組みづくりをしっかりと考えることがメーカーの最も重要な仕事だと言えるでしょう。
その前提の上で、成功するメーカーとそうではないメーカーの「組織としての違い」は何かと言うと、意思決定の権限を持つ人が「マーケティングを重視する」という意識をしっかり持っているかどうかということです。中小企業であれば社長、大企業であるならば事業部長などです。こういった人たちがどれだけ自社のマーケティングを重視しているのか、ここが成功するメーカーとしての試金石になっているのです。
意思決定ができる立場の人がなぜマーケティングを重視するべきかと言うと、マーケティングという業務が、ある程度の決定権を持っていないとできない仕事であるからです。
例えば、商品のブランディングひとつとってもそうです。商品のイメージを高級志向にシフトしていくと決めたとしても、高級志向にするための価格から広告、ブランドイメージまで、担当者レベルで一気に変えるのは非常に難しいのではないでしょうか。
もちろん少しずつ変えていくことはできますが、それだとあまりにもスピード感が足りません。しかし、これが社長や事業部長など意思決定ができる立場にある人が率先してやるのであればどうでしょうか。変化のスピードは担当者とは比べ物にならないと言えます。
マーケティングの土台を作る上で、大企業であれば事業部長、中小企業ではやはり社長がキーマンとなります。大きなメーカーでも社長の一声でコールセンターができたり、ブランドのイメージが一気に変わったりすることはざらにあります。
以前、かなり大きな売上規模のメーカーのマーケティングをお手伝いさせていただいたことがありますが、そのときに社長がここまでマーケティングの業務に入ってくるのかと思うほど、マーケティングを意識した経営をとっていて大変驚いた経験があります。
もちろん意思決定ができる分、独りよがりの判断にならないように注意は必要ですが、売上をあげるための最も重要な業務だからこそ、組織の中で重要なポジションにある人がしっかりとマーケティングのことを意識しておく必要があるのです。