広告表現の規制が厳しくなっている
別の記事で、広告表現に対する法規制の厳格化に触れました。2018 年、景品表示法違反として消費者庁から措置命令を受けた企業のうち、実に半数以上が健康食品を販売するメーカーに対するものでした。
また 2019 年 3 月末には年度末の措置命令ラッシュがあり、これまで専門家のなかでもグレーゾーンとされてきた内容に対して指摘が入るケースが見られました。このことは、多くの健康食品メーカーに衝撃を与えました。措置命令を受けると、不当な広告をしていた期間の売上から算出された課徴金が課せられ、最悪の場合、経営が破綻してしまうメーカーもあるようです。
なぜこのような厳しい状況になっているのでしょうか。サプリメントは口から摂取され体内に直接入ることになります。製品そのものに含まれる成分はもとより、どのように消費者に訴求すべきかなど、様々な法令によって規制を受けています。過去に個人輸入したダイエット食品で死亡事故などが起きたこともあり、健康被害などから消費者を守るべく、複数の法令に守られているのです。
一方で、メーカーはいかに他社の製品と差別化して魅力を伝えるかを考えなくてはなりません。健康食品はあくまで「食品」という位置づけです。トマトにがんを治す効果があるとは言い切れないように、健康食品にある一定の効果効能があるといった表現はできません。
しかし、各メーカーはどうにか自社製品の魅力を伝えるか知恵を絞っています。その意識が、規制ギリギリの表現方法に繋がり、法に抵触してしまう広告表現ができてしまうという問題点に繋がるのです。
例えばビタミン C のサプリメントを販売しようとする場合、どのような表現が適切なのでしょうか。先程お伝えしたように、サプリメントはあくまで食品という区分のため、薬のように具体的な「効果」を謳って販売することは法令で規制されています。そのため、実際に成分としてその効果があったとしても「これを飲めば、〇〇が良くなります」という表現を広告で伝えることはできないのです。
結局、伝えられるのは「足りない栄養素を補完する」といったことのみです。そうすると、他社商品との差別化も非常に難しくなってきます。競合となる他社の商品も成分はみんな同じビタミン C という成分ですから、差別化ができません。せいぜい、含有量の違いをアピールするくらいです。
Web広告ではどうしても販売できない例
美容クリニックや皮膚科のお医者さんが専用の化粧品やサプリメントを開発し販売するのは、よくあるケースです。患者様の健康を思って様々な製品を開発する。それ自体は、とても良いことだと思います。
ただし、自分のクリニックだけではなくインターネットを使って広く販売することを考えた場合、広告表現が問題として立ちふさがることがあります。一般的に、開発者は製品そのものの効果について深く考え、製品化しています。このケースでは開発者が医師だけに、成分の持つ効能や身体への働きに関する知識が非常に豊富です。クリニックなどでは患者さんに「これを飲めば、肌のハリにもいいですよ」と説明するのでしょうが、これを通販で行おうとすると法令の規制を受けることになり、同様の表現では販売できません。
このように、サプリメントだとしても、薬のように効果を伝えながら販売することができると思って製品を開発してしまうケースがあるのです。製品の良さを伝えることができなければ、誰もその製品に魅力を感じません。ほとんどの製品は広告表現まで考えて開発されていないため、結局何も伝えることができず「インターネットでの新規獲得がほとんどできない」と悩んでおられるケースが多々あります。実際にご相談いただいた医師の方と話すと「広告では何も言えないんですね」と驚かれることが多いのです。
世紀の大発見! 新規成分で本当に売れる?
他社の製品との差別化を考え、これまでに無いような新規成分を用いた健康食品を開発するケースがあります。例えば、「ビタミン X」という成分を発見したとします。これを一定量摂取すると、体内の成分 Y の値が改善し、疲労回復に効果的だとします。
こんな成分を使ったものは今までどこも製品化していません。さあ、たくさんの人に利用してもらうべく広告を出そう、となったとき、問題が起こってきます。その「ビタミン X」の効果はどのように伝えるのでしょうか。
先ほどお伝えしたように、効果・効能を謳った広告は厳しく規制されています。そのため、新規成分を使った製品の魅力を伝えることができないのです。ビタミン C など有名な成分であれば、「肌に効果がある」「風邪の予防に効く」など、効果を消費者側がある程度認知しています。しかし新しい成分である「ビタミン X」になると、その働きや効果を消費者が知識として持っていないため、それを使った健康食品が自分に必要あるものなのかがわかりません。
つまり、製品としては画期的でも、その魅力を伝え表現する方法がないと売ることができないのです。この問題に対し、消費者に新しい成分の知識を持ってもらうための啓蒙から行っているケースをご紹介します。
アサヒカルピスウェルネス株式会社では、「L-92 乳酸菌」や「C-23 ガセリ菌」などを使った健康食品を販売しています。これらの成分は、消費者にとってはあまり耳馴染みがないものではないでしょうか。そこで、彼らは、そういった成分について詳細に説明するための、「『カルピス』由来健康情報室」というウェブサイトを作り、そのサイトの広告に力を入れるという方策をとりました。
つまり、商品紹介をせずに、成分知識だけを広める啓蒙のための広告を作っているのです。例えば「乳酸菌」についてはほとんどの消費者が「腸に良い効果をもたらす」「便通がよくなる」など、一定の知識を持っていると思いますが、これが L-92 乳酸菌となるとどうでしょう。これまで知られていた乳酸菌と何が違うのか、その違いを把握している人はほとんどいません。そこで、「L-92 乳酸菌とは何なのか」というページを作り、このページ自体を広告の流入先としたのです。
そこには商品の紹介は一切なく、「L-92 乳酸菌がどういう菌であるか」ということや「アレルギーやアトピーに効果的」「花粉症にも良い」という内容を、科学的に説明しています。あくまで成分の知識を広く顧客に浸透させるためといった立ち位置の広告のため、商品販売のための法令の規制を受けることはありません。
もし誰も認知していない新しい成分が含まれた商品を販売するのであれば、まずはこのように成分知識を啓蒙するような段階的なアプローチを取る方法が最も効果的だと言えます。特にサプリメントに関しては、科学的な検証結果やエビデンスなど、伝えたいメーカーの想いはたくさんあると思います。その想いを伝えるのであれば、現状ではこのように「認知→販売」というステップを踏んでから購入させるアプローチをおすすめします。こういった方法をとると、「成分認知」という直接的にはお金を生まない部分に、広告費やランディングページの制作費などコストをかける必要が出てきます。しかし、それこそが自らのポジションを確立し、継続的な売上をあげるための一番の近道になると私は考えています。
最新のカスタマイズサプリ販売
ここ最近、「DtoC」というキーワードが聞かれるようになりました。Direct to Consumer という意味で、直接、消費者に商品を届ける販売方法です。これを利用したあるサプリメントメーカーの例をご紹介します。
そのサイトにはいわゆる商品一覧はありません。ウェブ上でアンケートに答えると、一人ひとりに合ったサプリメントが提供されるのです。「よく眠れない」「お肌の調子がよくない」というように、アンケートの質問に答えていき、最終的に「あなたに足りない栄養素はこれです」という形でサプリメントが提案されるのです。複数の成分があり、その配合量などによって、個人個人の悩みに合わせた製品が出来上がります。こういったやり方は、法規制の非常に厳しい健康食品において非常に工夫された販売方法です。
何度も言うように、サプリメントの場合は「寝付けない場合にはこのサプリ」「肌の調子が悪いならこのサプリ」という表現で広告を出すことはできません。しかし、このやり方であれば顧客のニーズに合わせたサプリメントが提案され、直接効果を謳った商品を選ばせているわけではありません。
また、個人にあった製品を提案しているため「自分だけにカスタマイズされた専用のサプリメント」というイメージも与えることができ、長期的な継続購入も期待できます。このような販売方法が出てきた背景には、やはり広告規制の問題が与える影響も大きいのでしょう。健康食品を販売する際には、どのような表現で広告を作って販売まで持っていくのか、開発する最初から頭に入れておかなければなりません。「新しい成分だから入れてみよう」と安易に考えるのではなく、その成分の顧客への認知や準備はどうするか、そこまで想定し、様々な準備を整えておく必要があるのです。
この記事の著者
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2006年より化粧品、健康食品業界に特化したダイレクトマーケティング支援を行い、これまで150社250ブランド超の売上アップを実現。業界に特化した豊富な経験やノウハウ、リソースを提供している。
・著書『化粧品・健康食品業界のためのダイレクトマーケティング成功と失敗の法則』
・著書『化粧品・健康食品EC・D2C新規参入パーフェクトガイド』
・書籍と同名のコラムを日本ネット経済新聞にて連載中
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