個人に対応した情報が発信される時代へ
少し前までは、情報はテレビや雑誌などマスメディアの力を利用して一斉に消費者に伝えられていました。テレビCMや雑誌、新聞などの広告で「今年の流行色はベージュです」と打ち出せば、すべての雑誌やテレビで「ベージュが流行する」ということが伝えられ、ブームができていく、それが「良し」とされている時代でした。つまり、マスから情報が伝えられていたのです。
今は、インターネットやスマートフォンの普及によって情報の伝達方法が変わり、「個」の時代になりました。情報は受動的に受け取るものではなく、自分から接触しにいく時代になったのです。そのため、消費者は情報に対して迎合しなくなりました。「今年のカラーはベージュだけど、私は赤が好きだから、赤を着ます」そのような人が多くなったのです。しかし、情報を受け取る個人は変化しても、情報を発信するメーカーは個人の変化に追いつけていないという印象があります。消費者は十人十色だということは理解できても、その十人十色の個人に合った情報の伝達手段の方法がなかなか見つからなかったのです。
しかし、ここ数年で発信側にも大きな変化が生まれました。それが人工知能を使ったAI技術の登場です。AI技術が発達したことにより、個人個人に合わせた情報を提供することができるようになりました。
AIの技術は通販ビジネスでもすでに使われています。例えばサイトの訪問回数に応じて、おすすめする商品を変えるシステムがあります。初めてサイトに訪れた人と、何十回も訪問しているお得意様では、おすすめする商品も当然変わってきます。訪問回数や過去の販売履歴を元におすすめする商品のアプローチを変えることができるのです。
このように、AIを駆使することで、顧客の属性に合わせて自動的に個人に提供する情報を変えるというサービスは、今ではどのメーカーでも手軽に使えるようになっています。
今まではCMなどで一斉に情報を流し、その情報を受け取った人の中から欲しい人が買っていくというようなスタイルだったものが、個人個人の好みや行動に合わせた情報を提案できるようになった、これは本当に大きな変化です。
One to Oneの時代
個人の趣味嗜好にあった提案は、今でもかなり高い精度で可能になっていますが、この精度は今後、より高くなっていくことが予想されます。
例えば、最近では画像検索の技術とスマートフォンのアルバムを連動させることで広告を出す技術が開発されています。スマートフォンに犬の写真がたくさん入っていれば、ドッグフードの広告が出てくるなど、実験段階ではありますが、実際にそのような新しい広告が生まれてきているのです。
顧客の趣味嗜好を直接聞くという手段ではなく、行動履歴や閲覧履歴といったビッグデータをAIが分析したデータを利用する、そんなOnetoOneの時代にすでに突入しているのです。
パーソナライズに特化した製品
また、提供する商品も、より個人の好みに沿い、パーソナライズされた商品に変わってきています。例えば資生堂が開発したOptune(オプチューン)という商品。これは肌の状態をアプリを使ってスキャンし、自分の気分やコンディションなどのデータを入力すると、そのときの天気や紫外線・湿度など「肌」に影響するあらゆるデータと組み合わせて、その場でその人にあった美容液を調合してくれる、まさにパーソナライズに特化した商品です。
環境の変化や個人の状態に合わせたオーダーメイドの美容液で毎日お手入れができる、多くの女性にとって垂涎の商品と言えるでしょう。まさにOnetoOne時代の典型的な商品だと言えます。
すべてをAIに委ねてはいけない
ただ、すべての商品がOnetoOneであることが本当に良いのかと言うと話は別だと私は考えています。
AIやビッグデータを使ってつくり出されたモノはデータの集合知であり、エラーや偶然が起こることは少ないのです。結局のところOnetoOneとして出されるものには遊びがなく「Aにはaを、Bにはbを」と答えが常に提示されてしまいます。もちろんAIの計算上はその人にとってベストな商品なのかもしれませんが、「本当にそれでいいのか?」と改めて考えたとき、また別の答えがあるのではないかと感じています。
特に化粧品というのは心理商品でもあります。使うことによって心の状態が変わったり、その心の変化が体に影響を与えたりもします。自分が「いいな」と思っているものを使うからこそ、きれいになったり美しくなったりすることがあるのです。ですから、AIに提示されたOnetoOneの商品だけを使っていると、新しい発見や買い物をすることの楽しさが無いため面白みがないと感じるようになるかもしれません。
商品を手にとったとき「いいな」と思えることが、買い物をするための原動力のひとつであることは、忘れてはいけません。
もちろん、そんな判断すらAIが最適解を出してくれる、そのような時代の流れはすでに来ているのですが、こと化粧品を販売することを考えたとき、それだけで商品が売れるというわけではないということは頭に入れておく必要があるでしょう。