新型コロナウイルスによる3年ぶりの行動制限も無く幕を開けた新年2023年。
化粧品・健康食品のD2C、EC業界はさらなる競争激化が続きそうだ。
化粧品・健康食品業界の動向
昨年2022年の業界は、店販や訪販などデジタル以外の販売チャネルをメインに成長してきた歴史ある大手化粧品・健康食品企業や、増え続ける業界D2Cブランドをプロダクト面で下支えしてきた大手OEM会社などがついにオリジナルブランドの開発に着手をはじめた年でもある。直接顧客と繋がろうと、ダイレクトマーケティングやデジタルマーケティング分野への参入を進め、金銭的に潤沢な資本や他には提供できないオリジナル製品技術などを元手に業界を席巻しそうな動きが見て取れる。
業界の課題とその解決策
現在、業界が抱える代表的な課題として以下の3つが考えられる。
1.新規顧客獲得単価(=CPO)の高騰
2.関連法案の規制強化
3.デジタル/ダイレクトマーケティング分野の人材不足
それぞれを解説していく。
1.新規顧客獲得単価(=CPO)の高騰
新規顧客の獲得単価、いわゆるCPOの高騰は年々顕著になっていることはもはや業界の常識だ。私がこの業界のマーケティングに関わるようになってから早15年以上、CPOは、一貫して右肩あがりである。
これはインターネット広告の特性を考えると、すんなりと理解できる。
インターネット広告で採用されている広告費は基本的にはクリック課金である。
ある広告がクリックされるごとに広告費を支払うといった課金方法だ。そしてクリック課金の前提にある考え方が、「実はこの広告費はオークション形式で決まる」というものである。オークション、つまり人気の広告枠(キーワードや掲載場所)というのは、その枠を買いたいと思う企業、つまり入札する企業が多ければ多いほどその広告費は高くなる。
この15年、業界参入企業は増加し続けている。また2019年からの新型コロナウィルスは業界のDX化などを後押しし、非接触な販売方法であるeコマース化を加速した。そのため、露出場所としてのインターネット広告への需要が増え、オークションを戦う企業の入札が増えたのだ。つまりその結果、広告費が年々高騰しているというわけだ。それにともなって当然新規顧客の獲得単価も年々高騰している。
2022年、売上増加率がトップクラスだった化粧品企業の売上対広告費の割合が50%を超えたというデータもあり、業界の広告費高騰の事実を裏付けている。
このようにCPOの高騰は化粧品・健康食品業界にプレイヤーが増加していること、インターネット広告が採用しているオークション形式での広告費決定プロセスを考えると、至極当然の流れであり、今後もそれ自体が下がっていくということはほぼ考えられない。
2010年頃までCPO5,000円程度だったものも、2023年の今15,000円でも獲得できない。つまり当時の3倍までCPOは高騰している。仮にCPO5,000円で獲得を約束できる広告代理店やコンサルティング会社があれば眉唾ものである。もちろんCPO5,000円で獲得できれば何の心配もないが、「その前提でスタートしたにも関わらず」CPOが15,000円以上となってしまった場合が大問題である。
想定していた売上をあげるのに、想定していた3倍のコストが掛かってしまったと想像して欲しい。これが続けば事業は存続できるはずがないだろう。
では我々はどうすべきなのか。
この新規顧客獲得単価高騰時代にあった「事業計画」を立て準備しておくほか無い。
つまり5,000円でとれると想定しているのか、15,000円でとれると想定しているのかで、戦う準備が全く変わるこということだ。
先にあげたこの15年間のCPO右肩上がりの状態は、水の流れが上流から下流に流れるように、物が地面に向かって落ちるように誰にも抗えない法則のようなものである。
獲得単価の安い新たな媒体やツールを探すのではなく、こういった時代に生き抜けるようなビジネス構造の改革や事業設計が最も重要なことである。
例えば、商品価格をいくらと設定するのか。広告費が10年前の3倍になっている状況を考えれば、おのずと10年前のままの価格では戦えないことがわかるはずだ。
さらに考えを巡らすと製品プロダクトだけを収益源にするのではなく、それ以外のサービス(=例えばスキンケア企業であればお肌診断や相談窓口、その他のコンテンツ)を収益源にはできないのか。単なる製品の単品売りではなく、コミュニティや会員制度をサブスク型で提供する継続的な収益を得られるような事業構造を作れないかなど、いままでの化粧品・健康食品企業を超えたアイデアでもって状況の打開を模索することも必要かもしれない。
2.関連法案の規制強化
2022年は業界のプレイヤーにとって大きく法規制が強化された年でもあったともいえる。
まず、22年6月にあった改正特定商取引法の施行である。これまで再三、問題視されてきた「定期購入」に対するものだ。
この業界には「初回無料」や「お試し」と謳っていながら実際には定期購入に自動的に加入させられていた、「いつでも解約可能」と記載がありながらも実際には購入回数に縛りがあり、それまで解約できない、といった形で商品を販売する企業が少なくない数で存在しており、「詐欺的な定期購入商法」が社会問題化していた。
これをうけて多くの企業は定期販売の縛りを撤廃する方向で対応している。
次に問題視されたのはNHKなどの番組などでも放送され反響があった「No1広告」に対する不信である。
No1などを標榜したロゴや調査はいたるところで目にするが、その根拠や調査方法に問題があれば、他の商品などに比べて著しくすぐれているかのように消費者を誤解させる、景品表示法における「不当表示」となり禁止されている。
これらの手法も一時期までは「自社調べ」やそれほど多くない数の「モニター数」を根拠に表示していたこともしばしば見られたが、これらをきっかけこの手の表示は、企業自ら自主規制に動くと考えられる。
景表法の問題は、薬機法の問題以上に摘発件数も多く数々の化粧品・健康食品企業が措置命令などの行政処分を受けている。
最後に、昨年11月に改正案が公表された「電話受注の際のアップセル・クロスセルに対する新たな規制」である。通販事業者などが電話で勧誘を行い、申し込みを受ける商取引は「電話勧誘販売」と言われ、特定商取引法の規制対象となっているが、消費者庁はこの範囲の拡大を検討しており、以下のように変更されると考えられている。
「新聞、雑誌、ラジオ、テレビショッピング、ECといった広告を通じて注文する消費者に対して、電話受注においてそれらの広告に掲載していない商品の購入を勧めると電話勧誘販売規制の適用を受ける。」そのため、クーリングオフ制度の対象になるといった制約を受けるかもしれない。
以上、3つの法規制に関するトピックスをあげたが、年々、消費者がもつ声がSNSやパブリックコメントなどで可視化されており、さらに規制強化に動くことは想像に難くない。常に変化する法規制に関するトピックスには敏感にアンテナをはりつつ事業を行う必要性があるだろう。
3.デジタル/ダイレクトマーケティング分野の人材不足
本記事の冒頭に「歴史ある大手化粧品・健康食品企業や大手OEM会社などがオリジナルブランドの開発に着手」しD2Cに参入し始めたと記載したが、そこで問題となるのが「デジタル/ダイレクトマーケティング分野の人材不足」だ。
この分野に関わらず、いまの日本は人材不足が顕著である。今一番伸びているDX、通販市場を生き抜くのにもっと必要なのがデジタルマーケティングやダイレクトマーケティング分野のノウハウや経験に精通した人材だ。
販売チャネルが変われば、当然消費者行動も変わるため、彼ら彼女らに対するマーケティングも全く変わってくる。いくら歴史があり、化粧品や健康食品のプロダクトに強い会社でも、デジタルを使ったマーケティング、直接消費者とつながるダイレクトマーケティング分野を主戦場にした場合においては、全く商品が販売できないといった例も出てくるだろう。
SNSをはじめとしたプロモーションなどは当然デジタルネイティブな世代に圧倒的なアドバンテージがあり、また「バズる」ネタを考えるとこれまでの常識にとらわれない発想でもって情報発信する必要も出てくるかも知れない。そう考えると歴史ある古い会社というのはそれ自体がディスアドバンテージになりかねない。
それを打破するための「人材獲得」は事業を成功させるうえで最も重要な要素となるだろう。
とはいえ先にあげたDX化時代にこの手の人材は引く手あまたで、そもそも応募が少ないことに加えて、コストや時間をかけてやっと採用できたとして「社内で十分な教育ができない」「環境が悪くすぐに退職してしまう」といった次の課題も表面化してくる。
そこで活用いただきたいのがこの分野に特化したコンサルティング会社だ。
これからD2Cブランドを立ち上げ本格化していくのにあたり、デジタルネイティブ「ではない」世代が中心的な役割を担うことも少なくないであろう。そんな場合でも我々であれば、デジタルマーケティングやダイレクトマーケティングを駆使したD2Cブランドの戦い方、勝ち方をゼロから社内にインストールすることが可能である。いまの時代にフィットしたマーケティングノウハウやデジタルスキルを一緒に学び獲得、運営する通販チームを独り立ちさせることに成功している。
2023年の展望
このような流れを踏まえて今年2023年の展望を最後にふたつお話しておきたい。
ひとつめは「世界観=ブランディング」の重要性だ。
化粧品・健康食品業界は年々参入企業が増加しているが、そのプロダクトは基本OEM企業が担っている。そのためプロダクト単位での差別化はほとんど無いと言っていいだろう。それは化粧品・健康食品だけではなくアパレルや日用品などあらゆるモノづくりは外注可能であり誰でも希望すれば好みのものを製造することが可能だ。
そんな中で選ばれるブランドになるためには製品個別のスペックではなく、ブランドの世界観やそれをつくりあげるブランディングで差別化するほか無い。
世界観をつくるポイントは「自分にしかわからないこだわり」や「非常に個人的な想い」である。一見、市場調査、つまりマーケットインの発想がマーケティングのうえで正解とする向きもあったがそれ自体がすでに古い考え方となっている。その理由はマーケットインの発想だとすべての企業が同じ答えにたどり着く可能性があり、ゆえに差別化しづらくなる。
その点、「自分にしかわからないこだわり」や「非常に個人的な想い」を起点としたプロダクトアウトの発想であれば、それは唯一無二となり、他社には真似のできない世界観が醸成される。その世界観をマーケットに広げるためにはブランディングという名のマーケティングスキルも必要となってくることも事実だが、独自の世界観があるのと無いのとでは、このレッドオーシャンの業界内で勝てる確率も格段に変わってくるだろう。
ふたつ目はサスティナブルな事業を目指すこと=すぐに結果を求めないことだ。
毎年業界紙などが発表している「化粧品・健康食品企業の売上トップ100 ランキング」などという記事を目にしたことは無いだろうか。そこにはDHCやファンケルなど誰もが知る500億円〜企業から下位では5億円程度の企業までラインナップされている。ここで注目したいのはほとんどの企業が5年〜10年をかけてその売上を作ってきたことだ。
つまり1〜2年以内に起業したようなスタートアップがすぐにそこまでの売上をつくれるというほど簡単な業界ではないということである。こういうと夢や希望がない業界だと思われる方もいるかも知れないが、時間をかけた分だけブランドの基盤が盤石となり、この業界特有のレバレッジが活かせることとなる。
レバレッジとは一度消費者の生活に入り込むと簡単には手放せなくなる「化粧品や健康食品」という商材と扱っていることや、AI(=自動化)や既存のシステムを利用することで事業展開するD2C、通販というビジネスモデル上、少ない人的資本で大きな成果をあげることができるようなテコの原理がつかえることである。(これらは物理的に店舗が必要な事業やイチから自前ですべてを用意するような業界には比べ物にならないくらい小さな力でスタートできる)
そのため多少の時間=先行投資が必要になろうともその後十二分にペイできるような成果を手にすることができるということでもある。
サスティナブル=持続可能な社会といわれて久しいが、本当に素晴らしいプロダクトがあり、それを使った消費者が幸せになる、その結果として売上があがり、企業が繁栄しつづけることで社会的に存在意義のあるブランドとなるのだ。この順番こそが大事であり、まず売上ありきのプロダクト開発や事業開発はその時点で製品や消費者への想いが希薄ですぐにひずみが起き、サスティナブルではなくなるだろう。
最後に
本当の意味での「企業」と「消費者」そして「社会」にも喜ばれるブランドとなるための支援を今年2023年も引き続き行って参ります。
業界への新規参入、または既存事業へのテコ入れをお考えの経営者様、マーケティング担当者様はぜひ一度お気軽にご相談ください。いまの時代にふさわしい視点を踏まえたマーケティングノウハウ、そしてこれまでたくさんの企業を見てきたケーススタディを基に、御社の事業繁栄をお約束いたします。
2023年吉日
クリームチームマーケティング合同会社
代表兼CEO 山口 尚大
この記事の著者
- 通販・D2Cコンサルタント クリームチームマーケティング代表兼CEO
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2006年より化粧品、健康食品業界に特化したダイレクトマーケティング支援を行い、これまで150社250ブランド超の売上アップを実現。業界に特化した豊富な経験やノウハウ、リソースを提供している。
・著書『化粧品・健康食品業界のためのダイレクトマーケティング成功と失敗の法則』
・著書『化粧品・健康食品EC・D2C新規参入パーフェクトガイド』
・書籍と同名のコラムを日本ネット経済新聞にて連載中
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