新規顧客の獲得単価、いわゆるCPOの高騰は年々顕著になっていることはもはや業界の常識だ。私がこの業界のマーケティングに関わるようになってから早15年以上、CPOは、一貫して右肩あがりである。
これはインターネット広告の特性を考えると、すんなりと理解できる。
インターネット広告で採用されている広告費は基本的にはクリック課金である。
ある広告がクリックされるごとに広告費を支払うといった課金方法だ。そしてクリック課金の前提にある考え方が、「実はこの広告費はオークション形式で決まる」というものである。オークション、つまり人気の広告枠(キーワードや掲載場所)というのは、その枠を買いたいと思う企業、つまり入札する企業が多ければ多いほどその広告費は高くなる。
この15年、業界参入企業は増加し続けている。また2019年からの新型コロナウィルスは業界のDX化などを後押しし、非接触な販売方法であるeコマース化を加速した。そのため、露出場所としてのインターネット広告への需要が増え、オークションを戦う企業の入札が増えたのだ。つまりその結果、広告費が年々高騰しているというわけだ。それにともなって当然新規顧客の獲得単価も年々高騰している。
2022年、売上増加率がトップクラスだった化粧品企業の売上対広告費の割合が50%を超えたというデータもあり、業界の広告費高騰の事実を裏付けている。
このようにCPOの高騰は化粧品・健康食品業界にプレイヤーが増加していること、インターネット広告が採用しているオークション形式での広告費決定プロセスを考えると、至極当然の流れであり、今後もそれ自体が下がっていくということはほぼ考えられない。
2010年頃までCPO5,000円程度だったものも、2023年の今15,000円でも獲得できない。つまり当時の3倍までCPOは高騰している。仮にCPO5,000円で獲得を約束できる広告代理店やコンサルティング会社があれば眉唾ものである。もちろんCPO5,000円で獲得できれば何の心配もないが、「その前提でスタートしたにも関わらず」CPOが15,000円以上となってしまった場合が大問題である。
想定していた売上をあげるのに、想定していた3倍のコストが掛かってしまったと想像して欲しい。これが続けば事業は存続できるはずがないだろう。
では我々はどうすべきなのか。
この新規顧客獲得単価高騰時代にあった「事業計画」を立て準備しておくほか無い。
つまり5,000円でとれると想定しているのか、15,000円でとれると想定しているのかで、戦う準備が全く変わるこということだ。
先にあげたこの15年間のCPO右肩上がりの状態は、水の流れが上流から下流に流れるように、物が地面に向かって落ちるように誰にも抗えない法則のようなものである。
獲得単価の安い新たな媒体やツールを探すのではなく、こういった時代に生き抜けるようなビジネス構造の改革や事業設計が最も重要なことである。
例えば、商品価格をいくらと設定するのか。広告費が10年前の3倍になっている状況を考えれば、おのずと10年前のままの価格では戦えないことがわかるはずだ。
さらに考えを巡らすと製品プロダクトだけを収益源にするのではなく、それ以外のサービス(=例えばスキンケア企業であればお肌診断や相談窓口、その他のコンテンツ)を収益源にはできないのか。単なる製品の単品売りではなく、コミュニティや会員制度をサブスク型で提供する継続的な収益を得られるような事業構造を作れないかなど、いままでの化粧品・健康食品企業を超えたアイデアでもって状況の打開を模索することも必要かもしれない。